タキイ主催の人参検定に参加した時:向陽など作りやすい品種は茎葉が旺盛で中心部は大きく、色がいい品種ほど茎葉はおとなしく中心部も赤いことに気づきました。
3月14日、地域の公民館から、生涯学習講座の取り組みとして野菜つくりに関する講演を依頼されました。人前で話すことはそれほど苦にならない恍けた性格だし、店頭やネット上でお客様とコミュニケーションから得られる題材には事欠かないし、第一、「タネ屋」で「ネタ」には不自由していないので(笑)軽い気持ちで受けました。
しかし、期日が近まるにつれ、緊張感が高まってきます
さらに、原稿がないとすぐ横道にそれてしまうから何を話し出すか分からない!と妻にも心配されだす始末。それで、ちゃんとした原稿を作ることにしました。
凝り性なもんで、やり出すと半徹夜が続き、写真やイラストを半分くらい交えパワーポイントで100ページくらいの分量に膨らんでしまいました。
持ち時間は90分+質疑応答だったのですが、当然のごとく時間不足!質疑応答はカットしますと司会者の裁断が下る始末に相成りました。(大笑!) 最後の方は、端折って端折って10枚飛ばし、5枚飛ばしでした。聞きに来ていただいた皆様に、真意がどれほど伝わったかを考えると申し訳なく思っています。
学生時代にも経験していたのを思い出しましたが、今回の講演会でつくづく再認識したことがあります。「論理的に無矛盾に内容を組み立て、起承転結がしっかりとした文脈で人に伝えるためには、聞いて理解することの10倍、いや数十倍のエネルギーと準備を要する」ということです。
今回のテーマは「本には載っていない野菜作りの秘密」とやや挑戦的なものとしました。たくさんの人に聴いていただきたいという野心が少なからずあったのは事実です。(笑)しかし、「野菜作りの情報を得るためにインターネットやハウツー本を漁って調べるけれど著者の数だけ数値が異なり、読めば読むほどわからなくなる!」というお客様の声をしばしば耳にしていたので何か役に立てそうなことはないかと考えた結果なのです。
野菜の種類ごとに個別にそれぞれを詳しく解説するのがオーソドックスな手法でしょう。それだと、その野菜については謂わば辞書式に野菜の名前でしか情報が検索できません。例えば歴史でよくやる「〇〇年に〇〇事件があって・・・」という年代暗記法のような、〇〇年という検索手法に頼る記憶は1年も経たないうちにその記憶は跡形もなくなっていることを私は経験済みです。年代という検索手段しかないのが原因です。記憶に至る検索手段が複数あり、それぞれが絡み合っていればいるほど記憶は強く印象付けられます。記憶の検索効率が高まるほど連想や新たな発想を生みます。記憶にたどり着く検索手段は多ければ多いほどいいという発想法です。
難しいことを言っているようですが、今回の話は様々な切り口から野菜つくりを考えることで新しいアイディアや取り組みのきっかけになるかもしれないと感じたのです。しかも感じる主体は聴きにくるお客様ではなく、(バラバラな話題をまとめる作業をした)私自身かもしれないという予感があったのです。
熊本、菊池での大根の検定会にて クロボク土壌ですくすく育つ春大根にややビックリ。土壌が深いので畝上げはしていないのに排水がとてもいいのだろうと推測。
【概観や形状の違いからの切り口】
◆形状の違いから原産地の違いを認識し、野菜が好む環境を整えてやることが大切。
切れ葉、つるつるは乾燥気味が好み、広葉、毛、深い直根は十分な水分が必要。
◆野菜の経験したストレスを形状の違いから読み取り、マニュアル通りの栽培手法にとらわれず、臨機応変に対応策をとリ得るためにはどこに注目したらよいのか。茎の維管束の大きさや並び方の乱れや葉の葉序のみだれ、大きさの不均一。葉のねじれ、茎の割れなど・・・
◆ストレスが過ぎれば生理障害が出てしまうが、適度なストレスがないと栄養成長から生殖成長にスイッチが切り替わってくれないこと。色、香り、味、甘み、結球など、SWが切り替わるための環境の変化が不可欠であること。
ミニトマト栽培で重要な下葉かき。この農場のポリシーは味より収量?やや葉の切れ込みが鈍角かな?
双葉の向きが畝と平行になるように・・・
双葉が異常に濃く、大きければ直根が切れ側根の発達が大きいと考えらるので
間引きするときはこちらを優先。
正常に成長していれば維管束系も対称、等間隔、同じ大きさ
【遺伝的分類からの切り口】
◆DNAの違いは顕著に生殖器官=花に現れること。茎葉が違ってても花の外観や構造が似ている場合は同じグループに属する野菜である。
◆DNAが遺伝的分類法を決定づけること。DNAがたんぱく質や酵素の違いを生み、鍵と鍵穴の関係のように、野菜の病害虫に影響を及ぼす。
コンパニオンプランツのメカニズムはまさにこれ!コアラがユーカリしか食べないようになったのは進化の過程で得たDNAの変化。
同様に、べと病やうどんこ病などの病原菌、アオムシやコナガなど害虫はその餌となる植物のDNAに依存するので、DNAのカギ穴が合致しない違うカテゴリーの野菜には影響を与えない。
◆連作障害のメカニズム:栽培植物の残渣の分解を担う微生物の発生が微生物界のバランスやミネラルバランスの崩れを発生させ致命的な病原菌が発生しやすくなる。そして、土着菌を頂点とする元の状態に復帰するの時間が数年かかってしまうことが連作障害の正体。有機栽培でも土着菌を頂点とする元の生態系を崩すという意味で何ら慣行農法と本質は変わらない!
【発達段階仮説】
成長が相似的ではなく、階段を上るように、SWが切り替わるように変化すること。エリクソンの心理学的発達段階理論で「母子分離」や「中学生の反抗期、自我の確立」を正常にクリアーしなければ正常な成長が望めないように、野菜もワンステップずつSWを適期に切り替えながら成長することが大切。
◆キャベツや白菜の結球前には、それぞれ10枚から20枚くらいの十分な葉っぱが展開しすることが正常な結球には必要不可欠。枚数不足は不結球につながる。
◆トウモロコシは本葉13枚で出穂(サカタ)この13枚がストレスなく展開することが収量や品質に大きく関係する。とくに幼苗期の乾燥は絶対に避けなければいけない。
◆極早生玉葱は、品種によるが定植後11-12月中に本葉が10枚~13枚位十分肥大しないと正常に結球しない。極早生系は夏場の育苗を乗り越えられれば年内どりも可能であること。
◆逆に中晩生系玉葱は茎葉の肥大の休眠期があり、休眠期以前に大きくなりすぎれば確実に抽苔すること。中晩生系の促成は不可能。グリーンプラントバーナリー型のキャベツ、ごぼう、人参など冬をまたいで春収穫期を迎える野菜も全く同じ。限度を超えた促成は不可能。
◆大根、蕪、人参、法蓮草、など主根たる直根が伸びきってからでないと、横に肥大したり葉数が増えたりしない。いわゆる縦横SWが正常に切り替わる前後に、乾燥、加湿、などストレスが加わると短根、曲がり、ゆがみ、又根、発色不良など異常をきたす。
蕪も、茎が成長しながら、根も成長・・・というような相似的な肥大は絶対にしません。
必ず、根が伸びきって、葉の枚数が整いある大きさに伸びきってから、根(茎部)が横に肥大してきます。
もし、根の肥大期までに十分な直根の伸びや葉ができていなければ正常な蕪には育ちません。太るべき時に太るべきところが十分成長しないとダメなのです。後で追肥して追っかけ肥大しても正常な肥大は望めません。
気温の変化の経年変化は±1.25℃位であまり変化はないけれど、1月に最低、8月に最高、
春は緩やかに上昇。秋は急激に下降という特徴はぜひ押さえておくべき!
春は人より遅く、秋は人より早くをグラフ化したもの
直線なので、面積=一定ならば日数は温度に反比例するだけれども、温度が高いほどエネルギー変換効率が上がることを考慮しその値が2あるいは1/2で試算すると実際に会うことが判明。
【環境要因】
野菜の出来が悪かった場合「お天気が悪かったので・・・・」という決まり文句で一時的に納得。しかしお天気の何が悪いかは誰も教えてくれない。
長雨による根の湿害、病気の発生や光不足による成長不良。台風や大雨による直接被害。・・・などは理解できても昨年春の玉葱や秋の野菜全般の高値はなかなか原因がわからない。
調べてみると、平均/最高/最低気温の年度変化は±1.25℃程度。降水量も夏に多く冬に少ない傾向は例年同じ。日照量自体もほとんど経年変化はなし。しかし大きく違ったのは日照時間のグラフ。
このことから、炭酸ガスが有機物に変換される過程に重要な役割をするのが日照時間というファクターであることを再認識。
肥料から得られる乾物有機物は全体の8%。それに引き換え、炭酸ガスと水と酸素から得られる乾物有機物は全体の92%。92%の重要性とその変換エネルギーに不可欠な日照時間に今一度注目すべきだという結論に至る。
※乾物重量の2-3%が窒素であることから、野菜に必要な窒素肥料の施肥量が計算できることを実際に実演。また野菜には固有の大きさがあることから
大きさ≒(成長に必要なエネルギー)/栽植密度=一定ですから栽植密度も必然的に決まることが導けること。
いずれにしろ、成長のSW理論と組み合わせ、SWが切り替わるまでに十分の日照時間を確保することが大きく影響することに納得。
温度、降水量、日照量のグラフの経年変化がワンパターンな変化しかしていないのに比べ、
日照時間のグラフはその年の野菜の出来不出来に大きく相関していることがわかりました。
【葉根菜と果菜類という分類】
◆栄養成長の結果を収穫する野菜が葉根菜類。細かく分けると1カ月野菜、2カ月野菜、3カ月野菜、4カ月野菜、それ以上と分類できる。1~2カ月で収穫に達する野菜は移植による生育停滞や追肥では間に合わない、元肥重視でストレスなく成長させることがポイント。3カ月以上の野菜は追肥が不可欠。ニンジンなど長期間の成長を要する野菜は季節の変化の要因を強く受けるので栽培期間の制約が大きい。
◆栄養成長が生殖成長に変わることは絶対に阻止しなければならない。だから、野菜のカテゴリーごとの違う花芽分化とトウ立ちのメカニズムを理解しておくことが重要なこと。アブラナ科を中心に低温とその後の長日と温度上昇が原因になることが多いけれど、レタスの高温、法蓮草の日長、大豆などの短日性植物などもあること。
◆果菜類は単位結果性を持つキュウリなどを例外として、必ず開花受精をしないと結実しない。過保護は栄養成長をうみ、生殖成長を阻害する。
①適度なストレスが花を咲かせ、受精を促すメカニズムであること。
②逆に受精後は果実の肥大のため栄養成長期以上の養分が必要になるのでこの時期の追肥が必要不可欠なこと。
トマトの糖度=水分の抑制というストレスが不可欠ではあるけれど、過剰のストレスはカルシウム欠乏症という生理障害を発生させます。塩トマトなども植物に不要なNaをストレスとして糖度を上げる手法ですが程度が過ぎると過剰症が出るので注意が必要です。
極早生系玉葱が過度のストレスを受けた場合は分球します。(2015年のこの例では低温、少日照がストレス過剰になったため)ストレスの程度で二分球、さらには三分球・・・逆に、同じユリ科のラッキョウは肥料を抑えストレスを与えることで小球で多分球を促します。いずれにしろ、子孫の生存確率を増加させるために発生する分球もストレスが原因。
講演会の要旨は以上のとおりで、野菜の栽培を形状、DNA、発達段階、環境、用途という多方面から分析してみました。次回は、トマトの実のなり方に関するユニークな解析を行ってみたいと思います。