単為結果性(たんいけっかせい)って・・・?

キュウリはまだ種まきできますか?インゲン豆はどうですか?
トウモロコシ南瓜大豆小豆は?

・・・これらの梅雨時の種まきに関する問いへのキーワードが単為結果性です
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春は過ぎ初夏真っ最中?このようなご質問がたいへん多いので・・・・とりあげてみました(笑)。

 

◆野菜(果菜類)はどうして実を付けようとするのですか?
テーマに到達するまでちょっと寄り道しますが、考えてみて下さい。

 

【楽天的宗教家】
人間に美味しい野菜を食べてもらうため。愛情をかけて育てたので野菜がそれに答えてくれた

【学生】
水と、空気と、炭酸ガスと、太陽光線で、光合成が行なわれ、生成されたエネルギーが葉や茎を作り終えて、次の段階に移ると自然に果実の方へエネルギー=養分が行くようになるので

【栽培家】
良い品種、良い肥料を与え、天候に恵まれたため。もちろん適切な肥培管理を行なったから。

 

楽天家や学生さんや栽培家の皆さんのご意見はご尤もだと思うのですが、私自身いろいろ考えてみたのですが、どうも彼らの考えは「必要条件」ではあっても「十分条件」だとは言えないようです。

①例えば、天候要因や病害虫という環境要因に対し「愛情」という抽象的なものはいかにも脆いです!

②葉や茎が十分に育ちすぎるとこれを「栄養成長過多」といいます。この場合果実を作る所謂「生殖生長」は阻害されてしまう場合があります。※トマトの着果前の多肥は禁物です!

③さらに、良い品種、良い肥料、良い天候、良い管理をしても、年によって、時期によって実の付け方は一様ではありません。逆に良い果実ができるためには、品種、肥料、天候、管理が良いことは絶対に必要です。でもそれだけでは十分だとは言えないのです。

 

私の考えるより本質的(十分条件的)な答えとは、

野菜は人間に食べさせるために果実を作るのではなく、種(しゅ)を残し子孫を増やすために人間を利用する手段=囮として果実を稔らせるのだ。・・・と考えています。
あくまで、冷徹なダーウィンの進化論に則って実を付けるのだと言うことであり、それ以上の目的はないと思います。
だから果菜類は自然に実を付けるのではありません。発芽して成人に達し十分大きく成長したら花を咲かせ受粉し授精が完了して種子ができないと実を太らせようとはしません。無駄なエネルギーを費やして種が入っていない果実を肥大させようとはしないのが普通で当たり前なのです。
ところがです!世の中には不条理な((^_^)!)例外が必ず存在いたします。
代表的な例は胡瓜(キュウリ)です。

種ができないのに、要するにシイラッポ(方言かな??)で実がドンドン太る性質があります。もちろん授精して種ができても太ります。これ故にキュウリのことを(オトコイラズ・・・これも方言かな?)とも呼ぶそうです。
このような授精せずに実を太らせる奇形児的な性質のことを「単為結果性」と難しい言葉で呼びます。カッコイイので私も常用しています(^_^)。
※昔の黒イボ系節成胡瓜など長日の影響をうけたり、単為結果性がない胡瓜もありこれから述べる夏蒔き抑制には向かない品種もありますのでご注意下さい。当店で販売している胡瓜はこの点を配慮し全て単為結果性があり、日長の変化を受けないのでご安心下さい。
ウリ科でも、瓜類一般や西瓜や南瓜では単為結果性は見られません。だから、実を確実に付けるため蜂をとばしたり人工授精をしなければいけません。

 

ナスでも、トマトでも一般的には単為結果性はありませんので、実を付けるためには授精が必要です。疑似授精のために用いられるのがトマトトーンなどのホルモン剤です(詳しくはこちらをご覧下さい) 。

(余談になりますが・・・)ただし、ここでも最近例外が生まれつつあります。単為結果トマト、単為結果ナスなどと銘打って新品種が上梓されつつあります。将来はこれらが主流になるでしょう。なぜなら、胡瓜と同じように変態的な奇形でありながら、余り環境に左右されることなく確実に実を付けてくれるからです。

 

◆ここまでのまとめ
単為結果性という生物学上不条理な性質がない限り、授精~種の生成というステップを踏まないと実を付けようとはしない。という法則をご理解下さい。
長くなりましたが、この法則をふまえ梅雨の今、種まきをするとどうなるか?考えてみましょう。
以前、葉根菜は種まきから収穫までの時間で1~1.5ヶ月野菜(菜類、ホウレン草)、2ヶ月野菜(白菜、ダイコン、かぶ)、3ヶ月野菜(キャベツ、ブロッコリーなど)、3.5~4ヶ月野菜(人参)と分類されると書いたことがあります。

 

では、果菜類はどうでしょう。先に挙げた(直まき可能な)きゅうり、南瓜、トウモロコシ、インゲン、大豆(枝豆)、小豆・・・・は、つるなしインゲンなどの例外を除きほぼ3ヶ月野菜ではないかと私は思っています。
種を蒔いて約2ヶ月で開花授精、その後果実の生長に0.5~1ヶ月で収穫期を迎えるから合計約3ヶ月かかるという計算になるからです。

この計算をふまえ・・・
つるなしインゲンは2ヶ月かからずに開花しますし、南瓜は授精から収穫まで1ヶ月では収まりませんが、夏蒔きの場合はアバウトに播種後約2ヶ月弱で開花授精期を迎えると考えていいでしょう。

ここまで来ると最初の質問の答えは自然と導き出されるようです。

もし梅雨時=6月に蒔いたら、+2すると8月になります。人間でも熱中症で倒れそうになる8月、しかも今年は猛暑だとか長期予報では言っております。また最近は温暖化の影響か9月になっても残暑が厳しいので地域によっては7月に蒔いても同じ事が言えるでしょう。すなわち、梅雨時に種を蒔くと、開花しない可能性があります。開花しても授精できない可能性が高くなります。

 

これまで繰り返し述べたように、果菜類は授精して種が付かないと実を肥大させない性質があります。だから授精の可能性がない猛暑期に、開花時期が重なるように種まきをしても葉や茎は茂っても全く実が付かない!ということになってしまいます。

 

南瓜、トウモロコシ、インゲン、大豆、小豆などの果菜類は、高冷地など夏涼しい場所でない限りは、6月~7月上旬の種まきは控えた方が賢明です
逆にこれらは、7月中旬以降8月中旬の最も暑い時期に種まきをしてあげると、開花授精期がとても心地よい9月くらいになるので、ストレスなく授精結実しやすいということがわかります。(九州暖地標準)

 

◆ただし、例外はキュウリです。
キュウリは単為結果性という生物学的に変態的な性質があるため一般的な白イボ系夏胡瓜は4月より8月中旬くらいまで連続して種まきが可能です。ただしいくら単為結果性という優れた(?)性質があっても高温時や少日照下では収量が落ちてしまいます。

 

※最後になりましたが、胡瓜の後のツルありインゲンがとてもオススメです。
①連作障害を考えなくて良い。いや逆にウリ科>マメ科で好都合!
②胡瓜の支柱を有効利用できる。
③梅雨がないので春蒔きのインゲンより多収である。
④気温が下がってくる10月頃とても味が良くなる。モロッコ、マンズナル、ケンタッキー101などは最高です。