なぜホルモン処理をするのか? トマト編

トマトトーンは必要か?

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お客様相手ですから、店頭では反論や批判を直接的に表現して言うことはできるだけしないように気をつけているのですが・・・、

「本当はそうじゃない!」という話題を取り上げてみたいと思います。

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◆お客様との問答
Q1「トマトトンを使わないと実がつかないのでしょう?」
A「トマトトンで処理しても、実がつかない場合もあります。」

Q2「トマトトンで処理すればよく実がつくのでしょ?」
A「トマトトンで処理しなくても、ちゃんと育てば実がつきます。」

 

つまり、トマトトンでホルモン処理することと、栽培上トマトがよく実がつくことは、厳密なロジックで言えば必要条件でも、十分条件でもありません。因果関係もないです。ただ、トマトトンをトマトやミニトマトの一段目の花房に100倍で花房の部分だけ散布すれば一段目の花が、受精しなくても、あるいは受精しても肥大しにくい場合、トマトトンを処理しない場合より実が落ちずに肥大しやすいという相関関係はあります。
特に、トマトの場合、一段目が着果すると、二段以降(もしくは3段目以上)は、自然に着果しやすくなるのでホルモン処理は、特別の場合以外は必要はないのです!

 

◆トマトはなぜ結実するのか
トマトに限らないのですが、一般に果実類は、人間に食べられるために果実を肥大させるのではありません。自分の子孫を増やすために種をばらまいてもらうために、副産物として果実をおまけにつけているのです。(チョッと話題がそれますが、)種が出来ると全力を尽くして種と実を同時に肥大させようと必死になるので、養分が不足する場合、茎葉にいくべき養分を削ってでも種がついた果実部分に優先して養分を分配するようになります。(したがって、このときが追肥の絶好のチャンスなのです!)

つまり、実をつけることは主目的ではなく、種を作ることが主目的なのです。
種を作ることは受精することが必要です。受精することは丈夫な花が咲くことが必要です。丈夫な花が咲くためには、しっかりと花芽分化することが必要です。
※例外もあります。キュウリなどの単為結果性(受精せずに肥大する性質)ですがある意味で種子が出来ないのですから、生物としては奇形児なのです。

 

さて、逆をたどってみると

栄養成長(体の肥大)
↓A
花芽分化
↓B
開花
↓C
受精
↓D
種の形成
↓E
果実の肥大

が結実する流れです。お分かりと思いますが、果実の肥大のためにはA~Eのステップが途切れることなく順調に進まなければならないのです。トマトトンによるホルモン処理はCのステップに作用し、見かけ上受精したようトマトを錯覚させることにあります。錯覚が成功すると必死になって実に養分を供給するようになり、果実の肥大が促進されるという理屈なのです。

 

このロジックから導かれる結論は
①いくらトマトトンによるホルモン処理をしてもA、Bの前段ステップがうまくいってなければ効果がないのです。
②C以降が順調に進むなら、ホルモン処理は必要ありませんし、逆にその過剰ホルモン性が奇形を生む結果となります。

 

◆トマト作りで最も大切なこと
一段目を着実に結実させること!」と、昔から叩き込まれてきました。ホルモン処理しようが、しまいが、一段目を確実に結実させることが最も大切なのです。それが出来れば、養分は、まず実の肥大に重点的に配分されるので、栄養過剰に陥ることなく二段目以降も正常に花芽分化し、開花、結実をするサイクルが自然と確立されます。放っておいても、適切な養分があり天候に恵まれれば、自然と花がつき、実がつくようになります。

 

三段目の花が咲き、受精した直後はトマトが最も疲れるときです。
①体も大きくしなければならない。
②上段の花芽も分化させなければならない。
③一、二段目の実も太らせなければならない・・・という三重苦の時期だからです。
このときに十分追肥を行えばトマトは波に乗ったように次々に実を付けるように反応します

 

しかし、
①元肥過剰(愛情のかけ過ぎで、肥料を植え付け時に必要以上に与えるとき)や、
②温度が高すぎたり(低すぎたりする)と、正常な花芽分化が行われずに、花が飛びます。
花が飛ぶと栄養を消化する器官が失われるので、肥料は茎葉に分配せざるをえず、茎が丸々太り、葉がおたふくのように太くなり下側に反り返ります。いったん太りだすとそちらを維持するのに養分がますます必要になり、もはや、花芽を付けるようにコントロールすことは至難のわざとなります。肥料を切ると元気自体がなくなってしまうからです。

 

トマトトンによるホルモン処理は一段目を確実に着果させる手段の一つに過ぎず、全部では決してありません。
①肥料がちょっとだけ多すぎたり、気温が適温でないために、花が咲いているけど、力がないとき。
②立派な花芽が分化し、しっかりした花が咲くのだけれど、天候が悪かったり、虫が少なかったりして、花が受精しにくい時など、
もうチョッと後押ししてやればD以降の受精ステップ以降に進めそうなときにトマトトンによるホルモン処理が有効に働くのです。

受精の可能性のない花にホルモン処理しても必ずしも実の肥大には繋がらないのです。

 

◆ホルモン処理の化学的、生物学的なメカニズム
ホルモンが濃度勾配を人為的に変化させ、果実への養分の流れを太く確実にするから受精しなくても、トマトが肥大するというからくりになっております。

 

◆トマトトンの光と陰
①1段目もしくは2段目くらいに効果があります。三段目以降では効果がないばかりか、高温期は変形果の原因となります。
②トマトの散布濃度は100倍です。(50倍は露地ではよほど寒いときの、一段目にしか用いません)
農薬です!登録されている野菜以外は使用してはいけません。カボチャはズッキー以外には使えません。メロンはノーネットでないと効果ありません。スイカは使えません。
④二重散布も変形果の原因になるのでだめです。トマトの場合は赤、ナスの場合は緑の「食紅」を入れて処理時に花に色がつくようにすると二度がけを避けられます。
⑤上記メカニズムを知ると良く分かりますが、花房のみに散布しないと効果がありません。ただし、花が散ってても、蕾でも中心花が満開のとき散布すればよいです。
⑥溶かしおきでも使えます。冷蔵庫に保存すると一期は使えます。薄めたやつをホームセンターで売っていますが、不経済ですし、ナスの50倍散布などに不便です。使うなら、石原のオリジナルが安くて使いやすいです。煮沸した水で50倍に溶かしておき、ナスはそのまま、トマトの場合は散布時に二倍に希釈すれば簡単です。
⑦主成分4-CPA(パラクロロフェノキシ酢酸)0.15%なので100倍希釈なら15ppmという非常に薄い濃度です。逆に薄い濃度でさえもオーキシン活性をしめす強力な薬です。ぜひ、オーキシンとかホルモン剤で検索してください。
ベトナム戦争で使われた枯葉剤の類似化合物なのです!化学肥料や農薬に過敏に反応する方が、トマトトンを無造作に扱われるのに大変違和感を感じます。ホルモン剤とは極微量で生理的に大きな効果を持つ(農)薬です!使い方を誤れば普通の殺虫剤や、除草剤以上に体に影響を与えることをお忘れなきよう。くれぐれもご注意ください。

 

題材はイチゴですが、トマトに似ています。良いストレスが良い実をつける原因だということについて書きました。お読みいただけたら幸いです。(ただいまリンクを復旧中です)