福岡県のH.I様より質問がありました。今回は写真がありませんが、多くの方が同様なご疑問をお持ちのようですので、FAQとして今一度復習の意味でまとめてみたいと思います。
●昨年に比べ早生系の玉葱は良くできた!
●一方、中晩生系についてはべと病の発生、生育不良などもあったが平年並み!
という報告を皆様から頂いています。
丁度、今からが中晩生系の貯蔵玉葱の収穫時期に入ります。皆様の玉葱の出来はいかがでしたでしょうか?
本題に入ります・・・(笑)。
◆まず押さえておくべき基本的な考え方は、
①施肥したら、通常の化学的な配合肥料は1.5~2カ月効果が続きます。
②温度が高く、生育が早いときが肥効は短いです。
③温度が低く、生育が鈍いときは肥効は長いです。
④早生系は休眠が無いので持続的な肥効が必要です。
⑤中~晩生系は(だいたい12~2月の厳寒期)休眠するので、休眠中の肥料(特に窒素分)はほとんど必要ありません。
⑥マルチをすると追肥できませんので、元肥には緩効性肥料が主に用いられます。
またマルチ栽培では肥料が流失しないので、露地に比べて施肥量は1/2~1/3くらいの量で充分です。
⑦リン酸は全量を元肥で与えることが基本です。一方、窒素とカリは生育に応じて分けて与えるのが理想です。つまり元肥と追肥に分けて与えたほうがコントロールしやすいのです。
⑧低温期に生育する玉葱ではカリの葉面散布が特に肥大に良い影響を与えることがわかってきましたので低温、少日照時には特におすすめします。一方、窒素はこのような時期に与えすぎるとべと病などを誘発しますので注意が必要です。
これら基本をふまえたうえで、玉葱の場合、施肥で大切なことは、肥料のやり加減で、抽苔と貯蔵にも大きな影響が出ることを合わせて考えておかなければいけません。
◆(2~3月どり)極早生系はマルチ栽培が一般的で、90日以上の緩効性窒素を含んだ一発肥料を使うのが主流でしょう。しかし、露地の場合は元肥を必要量の1/2~2/3くらいにして、追肥は元肥の切れる12月頃、残り1/2~1/3位を与えるようにします。これで3月くらいまで十分肥効が続きます。
一方、1月下旬とかに(遅めに)追肥を行うと温度が低く吸収が遅いために、なかなか窒素が切れないので首の締まりが悪くなってしまいます。低温期の追肥の効きが悪いときは先に述べたカリの葉面散布が光合成を促してくれるので特に有効です。また、光合成促進剤と銘打って販売されている資材も有効だと思います。極早生系は抽苔を心配するより、トウ立ちする前に肥大が完了するよう、年内に十分葉数(10枚以上)を確保する気持ちで肥培管理を行えばよいと思います。
◆早生系の青切出荷の場合で貯蔵を考えないでよいときは追肥の早晩はそれほど重要ではないかもしれません。しかし、早生系でも首の締まりや、長期の貯蔵が必要な時は収穫時に必ず窒素が切れる必要がありますので、肥料が切れるのを予測して追肥の時期を決定しなければなりません。(残留窒素があるとまだ成長しようとするので、首が太いままですし、休眠ホルモンが出ないのでつり球にしてもすぐ腐ります。) 特に早生系でも4月中旬以降にとれる品種では(肥効が続くと考えられる)2~3カ月くらいを差し引いて1月くらいまでには追肥を終えるようにしたほうがよいと思います。
◆中晩生系では休眠がありますので、2月下旬まではそれほど窒素分は必要ではありません。逆に3月以降の肥大が急激になりますので、追肥の時期は2月下旬~3月上旬ということになります。
中晩生系は早生系と違って抽苔とその後のトウ立ちが深刻な問題となります。(玉葱の抽苔のタイプをグリーンプラントバーナリー型といいます)
中晩生系は1月~2月の厳寒期に必要以上に大きくなっていれば必ず抽苔を起こし、その後どのような対策をとっても必ず花が咲いてしまいます(トウ立ち)。だから、早蒔き、大苗や早い定植、元肥の効きすぎは厳禁です。また上記の生育促進状態での越冬や暖冬などでは、トウ立ちの危険が高まりますので、厳寒期に突入する前に、根切りを行ったり、マルチを剥いだりして、肥効を抑えたりしない限りトウ立ちが起こってしまいます。
つまり、本来は生育が停止すべき寒い時期(これを私は休眠期と呼んでいます)に必要以上に肥大が進むと、1~2月の厳寒期に抽苔のスイッチが切り替わってしまうのです。いったんスイッチが入ってしまうと後戻りは不可能です! 時に抽苔が始まると茎葉の肥大が止まるので追肥どころではなくなってしまいうからです。(本項は中晩生系のみに当てはまることにご注意ください!)
◆相対的な施肥量と時期については上記のとおりです。具体的な肥料設計は貴地の栽培マニュアル等をご参照ください。ちなみにCECが高いクロボクや堆肥の投入が多い畑ではやや少なめでよいですが、佐世保など赤土でやや痩せた土地では、(目安として、)施肥全量:堆肥3t以上/10a 窒素15Kg-20Kg リン酸15Kg以上 カリ10~15Kg程度でよろしいのではないでしょうか。元肥2/3として追肥量は5-7Kg/10a カリ5Kg/10a位でよろしいのではないかと思います。
※なお、分球は追肥遅れでも発生する場合があります。しかし分球は直接的には生育中のストレスが限界を超えた時に発生いたします。だから、肥料切れだけではなく、低温でも、乾燥でも、生育中に玉葱がストレスを強く受けた時、生存の危機を回避するために自分自身が栄養繁殖的に分球して生き残りをかけようとして発生します。
※ストレスが分球を引き起こすのに対して、抽苔はグリーンプラントバーナリーの分水嶺となる苗齢を超えてかつ厳寒期の低温がある閾値を超えてしまうという二つの要因が重なったときに発生します。低温それ自身はトウ立ちと相関がありますが、十分条件ではないことは留意すべきだと思います。(今年、寒かったですが、早生系の玉葱のトウ立ちをあまり耳にしません。)