九州と北海道の玉葱の違い

+極早生玉葱とセット用玉葱の違い
        ~テーマは玉葱の生長のメカニズムです

探し方が悪いのでしょうが、文献を探してもどこにもスパッと明快な答えにたどり着けないもどかしさ。ここ一年ほど大きなストレスとなっていたのですが、最近ある時スーッと氷解しました。結論は単純ですが、苦しみぬいてたどり着いた過程をご紹介します。

 

ターボとかターザンとか九州ではよく知られている品種でも北海道では全く栽培されていません。また、北海道で主力の品種は「北もみじ2000」とか「オホーツク222」とか「北はやて2」だそうですが、九州では全く耳にしたことがない品種ばかりです。・・・そんなわけで、わいてきたのが、次のような疑問でした。

 

①北海道の玉葱の品種を、九州(あるいは北海道以外の一般暖地)で栽培するとどうなるのだろうか?
逆に
②九州(あるいは北海道以外の一般暖地)で使われている品種を、北海道で栽培するとどうなるだろうか?
(以下は付け足しですが(笑)、よく質問を受ける問いでもあります)
③シャルムなどがセット栽培専用品種として用いられているが、極早生品種であれば何でもセット栽培に使うことができるのだろうか?またその逆は?
④超極早生品種は短日下でも収穫できるがいったいなぜだろう!?
さらに、なぜそうだと断言できるか・・・推論してみます。

 

最初に貯蔵用玉葱の場合のおさらいです。
●一般に北海道では (3)~4月に播種、5~6月に定植、8/下~9月収穫が一般的。

●九州など一般地では 9月に播種、11月定植、5/下~6月/上旬 収穫が一般的

●玉葱の一般的性質はやや冷涼な気候を好む。(平均気温で25℃より15℃位が肥大が良いというデータが手元にはある。)また、高温になると腐敗が始まるので暑さは苦手。

●玉葱は発芽後、上限:本葉13枚程度で葉の伸長は停止する。それ以前でも日長が品種固有の「長日」な限界日長を超えると結球=球の肥大が始まる。

●玉葱はグリーンプラントバーナリという、花芽分化の特性がある。つまりある一定の大きさ以上で、ある一定の低温下にさらされると花芽が分化し、その後の気温の上昇によりトウ立ちする。一旦トウが立ちだすと茎葉の肥大や球肥大といった栄養成長はピタリと停止する。

●早生、晩生を問わず、収穫後は自発性休眠が1カ月続く、その後の休眠は他発性休眠と言って品種や栄養状態や天候要因などにより1カ月以上の休眠が続く。その休眠をうまく利用して玉葱は貯蔵が可能となっている。

 

 

まずは先の問いの答えをご披露しましょう。
①北海道の玉葱を九州で栽培すると正常な肥大はしないし100%抽苔するので使えない。

逆に、
②九州の玉葱を北海道で栽培すると球形が完成する前にセット球のようなくず玉になってしまい正常な玉ねぎが収穫できない。

③セット栽培専用の「シャルム」を秋まきに使うと100%抽苔して失敗する。また、同じ極早生系で「貴錦」などを使うと本来の早生性が発揮できない場合があり収穫が遅くなる。

この様な疑問を解くカギとなったものが下のグラフです。
佐世保と札幌の日長の変化を示したものです。気象庁のデータから日長=(日の入り時刻)-(日の出時刻)で計算し、エクセルでグラフ化したものです。

 

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まずはグラフ化することにより明瞭になる事実は以下の通りです。
(A)春分と秋分で12時間日長は日本どこでも同じ。しかし夏至と冬至の日長差は緯度が高くなるにつれ大きくなる。佐世保でプラスマイナス2時間程度なのに対し(日長差は4時間)、北海道の札幌はプラスマイナス3時間を超えて年間6時間の日長差となる。約50%大きく変動する。

 

(B)グラフは逆サイン(三角関数)のカーブと類似する。普通人間が得意な足し算引き算的な直線的な変化をしないということ。つまり日長は、秋分、春分の時期に大きく変動し、夏至や冬至では比較的に緩やかにしか変動しない!

 

 

北海道の品種の最大の特長は
①夏至を中心とする日長は14時間以上で、かつ、穏やかにしか変動しない(※B)日長のもとで成長できること。
②梅雨がなく、夏が暑すぎないことは玉葱にとって共通に心地よいことであるが、同時に極端な低温に合う心配も無いので、低温=花芽分化や抽苔のリスクを全く考慮に入れずに育成されていること。・・・なのです!
それゆえ緯度が低い九州では限界日長=14時間以上の平均的な日長を確保することが全くできないので正常な結球は最初から期待できません。また九州のような作型で栽培しようとすれば低温感応を育種条件に入れていない品種では、即そして確実に!花芽分化し100%トウ立ちしてしまいます。

 

 

つぎに、
九州の玉葱を北海道で行われている作型で栽培したらどうなるでしょうか。上のグラフから分かるように春分を超えると急激に日長が上昇します。播種後定植するまでの短期間でグングン日長は伸び、九州の玉葱の限界日長といわれる12~13時間を軽く突破してしまいます。だから茎葉が十分伸長する前に球ができ始めてしまいます。温度や降水量とは違い、結局どんなに頑張っても日長はコントロールできませんので、失敗に終わるでしょう。

 

 

三番目の問題:セット栽培です。
極早生系ならばどれでもセット栽培できるわけでは無いし、逆も必ずしも断言できないのが本当のところらしいです。
なぜなら、九州で栽培される(超あるいは)極早生の品種は下降気温下で生育し上昇気温に移ったところで結球収穫します。一方、セット栽培は上昇気温下で生育し、下降気温下で結球しなければなりません。つまり、下降気温下でも順調に肥大する極早生系でなければセット栽培には使えないということです。

 

馬鈴薯でも同じですね。北海道系の男爵やメークインといった品種は上昇気温下での栽培に特化して育成されていますので、九州で行われている秋蒔きという二期作栽培には不適です。しかし、デジマやニシユタカみたいな長崎県産の品種は上昇下降の両温度変化に影響を受けないので秋蒔きにも使えます。

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最後の付けたしの問題ですが、これは限界日長という今日のテーマの整合性をとるために付け加えました。つまり恒例の法則の例外というやつです。例えばスーパーアップや加津佐13号がこの例外に当てはまるのです!

 

単純化して総括すると、普通の玉葱は日長の変化を感じ取るセンサーがあり、そのセンサーによって「長日な」限界日長(北海道は14時間、九州は12時間~)という閾値を感じるスイッチ=SWが存在し、その切代わりによって葉の伸長が止まり、球が肥大する生長=結球がはじまります。しかし、全てがそうでなければならないと仮定すると超極早生の場合は合点がいきません。なぜなら、11~1月といった一年で最も「短日な」日長時間のもとでグングン結球するのですから!! これから結論付けられるのはただ一つ「超極早生系の玉葱の日長センサーは壊れている!」なのです。

 

スーパーアップや加津佐13号などの超極早生玉葱は「長日刺激は無関係」=「壊れた日長センサー」!という著しい結論にたどり着きとてもワクワクしておりますが、今回の推論でタキイ研究農場の玉葱育種の責任者でいらっしゃる馬場様には大変お世話になりました。有意義なお話をたくさんお聴きすることができ大変参考になりました。この場で厚くお礼申し上げます。

 

 

最後に(笑)!
今回の成果は上記の日長の変化を示すグラフが書けたことです。きれいな逆サインカーブ(B)ですが、玉葱に関係するのは春彼岸以降(3月下旬~4月上旬)の劇的な変化です。

九州でも春彼岸の前後1カ月で一年分の日長(約4時間)の変化の1/4の変化が起きることが分かります。1年は12カ月ですから、平均日長変化の3倍もの変化が生じているのです!もし十分な茎葉ができていないのにこの時期に遭遇すれば(この時期が九州の貯蔵玉葱の限界日長のSWが切り替わる時期になりますので)本来の正常な結球ができないことになります。

例えば九州では11月に植えるべき苗を年が明けてから定植する場合もありますが、1月~3月の日照時間が不足したり、低温にさらされたりすると十分な茎葉ができないままSWが切り替わるので小玉になったり、レモン球ができたりするでしょう。春植えは天候に左右される博打だということがお分かりいただけたら幸いです。