スーパーアップ玉葱~種まき時期の考察

スーパーアップ を予約した愛知県のKと申します。
この品種は初めてです。少しでも早く出荷できたらと考えこの品種を選びましたが、種の蒔き時は何日頃か教えて下さい。また、透明マルチに植えたときいつ頃収穫できるか教えて下さい。


本日はお客様からのご質問をとりあげて考えてみました

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責任重大!非常に具体的な数値を求める質問にて、久しぶりに身の引き締まる思いがします。「何月何日に蒔いて何月何日にとれるのか?」というシンプルな問ほど本当は大変難しいのです。実際、この三年を振り返ってみると長崎~佐賀の当店の平均的なお客様のデータを私の主観で列記してみると。


いずれも播種期は8月20日~9月上旬蒔で10月上~中旬定植して
平成25年蒔き・・・2月上旬~3月下旬 平均的収穫期           収量○
平成26年蒔き・・・1月中旬~3月上旬 早くから上物がとれ近年にない豊作 収量◎
平成27年まき・・・2月下旬~4月上旬 分球、トウ立ちがめだつ      収量△


この三年間、全く傾向が違っています。同じ播種期であっても、その後の天候(積算温度と積算日照)の推移で1~1.5ヶ月くらい、大きく違ってくることがお分かりでしょうか?

 

私の経験にすぎませんが、播種期を決定する上で大切なことを以下に列挙してみました。

 

◆貯蔵を目的とした中晩生系の玉葱は、どの品種も定植活着後12月~2月成長が停止し休眠状態になります。もし休眠前に太りすぎるとトウ立ちしてしまいます。だから中晩生系は絶対に早蒔きすることはできません。
玉葱はグリーンプラントバーナリー型という花の付き方をします。一年で最も寒くなる1月下旬~2月上旬頃、ある一定以上の大きさになってしまうと花芽ができて茎葉が太らずに花が咲いてしまうという意味です。逆に寒いときに小さければトウ立ちはしないことを意味します。もし早蒔きすれば100%この法則に当てはまってしまうのでトウ立ちしてしまうのです。だから、中晩生系は9月中旬以前に種まきしてはいけません。

 

◆一方、極早生系は休眠がなく早いといわれる品種ほど低い温度でも成長を続けることができるので順調に生育が進むほど早く肥大し、早く収穫が可能になります。これが中晩生系と極早生系の最も異なる点であり、問題を複雑にしています。それは、極早生系も先に述べたグリーンプラントバーナリーの法則から逃れられないからです!
実は早蒔きすれば必ず花芽はできるのですが、その花芽がトウ立ちするまでに肥大が完了してしまえば何の問題も起きません。中晩生系と極早生系の最も大きな違いが正にここにあるのです。

 

※CMになりますが、スーパーアップの優れている特長は正にこの点で、上梓されているどの品種よりも低温伸長性が抜群に優れています!だからツボにはまった栽培をすると1月どりも可能なのです。
◆したがって極早生系の播種期の決定は、普通の玉葱だったら生育が中断する12月~1月に「順調」に肥大することを見越して早蒔きをしているのであり、温度がありさえすればどれだけでも前進栽培できるということを意味しているわけではないのです。
だから、極端に暖かすぎる沖縄などより九州のほどほど温かい長崎県南部、佐賀県有明海沿岸部、熊本県有明海沿岸部や天草地方に産地が集中しているのだと思います。極早生系は暖かすぎてもダメ、寒すぎてもダメと言われるゆえんは正にこの点にあるのではないでしょうか。

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上図は長崎県と愛知県の最高、平均、最低気温の変動の違いのグラフです
◆長崎県と愛知県の気温の推移を調べて比較すると、11月~2月期で、最低気温で2.5℃~3℃。平均で2℃~2.5℃愛知県が低いようです。育種元のアカヲ種苗の専務さんのお話だと、愛知県南部の温かい地域では2月どりも挑戦的には可能かもしれないが、南部と北部ではかなり温度差があるとのことで九州と同じような早どりの作型では無理があるかもしれな いとのことでした

 

※以下青字の部分は、前日書きましたデータを専務様のご指摘により若干修正させていただきました。(4/15)

※愛知県では、(極端な変動がないという意味で)順調な冬が来た場合は8月下旬~9月上旬蒔きで3月上旬以降の収穫の作型が無難でしょう。一方、寒さの変動の多い今年みたいな冬だと、9月上旬蒔きで3月上旬~3月中旬以降の収穫という作型の方が失敗が少ないのではないかと思われます。

※愛知県以外につきましては、今年平成28年春どりの経験を踏まえ、最後のまとめの部分に、一般的な推奨作型を書いております。

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後で詳しくレポート予定ですが、
3/13頃、佐世保でのスーパーアップ圃場に見られた分球
【平成27年秋まき平成28年春どり】
総括すると、「順調な」冬とは程遠い、玉葱には厳しい試練の連続だったと思います。

 

◆播種直後の10月、乾燥いたしました。灌水が十分できなかった畑では極端な生育遅延が起きました。ズングリらっきょう苗も多く見受けられました。これが大きなストレス要因となり分球を多発させてしまったようです。

 

◆11月~12月、暖冬傾向が強いとの報道もあり、今年の冬は暖かい!?と誰もが思っていました。当然玉葱は肥大はするのですが、軟弱化の傾向が強かったように感じられます。地上部の肥大に対し、地下部の肥大が追い付いてないようでした。

 

◆1月 大雪もありましたように、一時的に例年になく低温期が続きました。12月までが比較的温かく例年以上に柔らかめに肥大していたが故に寒さが一層厳しく感じられたのだと想像いたします。
スーパーアップだけではなく、広く極早生系の玉葱の成長にとって大きなストレスとなったようです。そのために、生育遅延。ベト病、白色疫病、ボトリチスなど病気の多発。分球、トウ立ちが例年になく見られました。特に年内にある程度肥大していて雪による低温を強く受けた圃場ほどトウ立ちが目立ちました。
8月上旬蒔きで年内に肥大を終え12月に収穫できたとの報告も受けておりますが、今年は温度と日照条件の絶対量ではなく、変動の大きさが極早生玉葱の肥大に大きなストレス要因となりました。玉葱がストレスを感じると、死期を察し、早く子孫を残そうとする無意識の力が働きます。

 

子孫を残す最も簡単な方法は、玉葱の場合は分球です。根が分かれることにより何倍も子孫を増やせるからです。さらにストレスが大きくなるともっと効率良く子どもを増やすためにいち早く花を咲かせて種を付けようとします。これがトウ立ちです。

 

ゆっくり寒くなって平年並みの冬を迎えゆっくり暖かくなり春が来れば極早生玉葱にはとても快適に感じるようです。このような「順調」な冬であれば極早生玉葱はストレスを感じないですむので、分球もなくトウ立ちもなく肥大し続けられます。

 

しかし、今年平成27年度秋蒔き28年度春どりは「順調」な冬ではなかったが故にスーパーアップのみならず全ての極早生系玉葱にとって厳しい年になったのではないかと考えます。

 

【まとめ】
8月蒔きは高温下で発芽させること自体が非常に困難です。また、早く蒔いて早く穫れるためには「順調」に変動する穏やかな冬が不可欠です。

 

◆九州以外でのオススメの作型は
9月上旬播種 10月中旬~11月上旬定植 3月上旬収穫開始。
九州の沿岸中部と同じような気候で、「順調」に変動する冬の年であるならば 8月下旬~9月上旬蒔き 10月中旬定植 2月/(中~下旬)の収穫開始も可能だと考えられます。

 

◆九州の温暖地域では
8月下旬~9月上旬は種、10月上旬~中旬定植、2月より収穫開始。(温暖な天候、変動の少ない冬、透明マルチなど、順調に育つ条件が揃えば、それ以上の早どりも可能)だと考えてよろしいかと思います。

 

◆マルチの促成効果について
最初に、白マルチというキーワードがありましたが、一般に促成効果はトンネルで1ヶ月。マルチで半月前後というのが常識ではないかと考えます。マルチは透明度が高く赤外線を多く通すほど地温が上がりますので、黒<シルバーや色物<透明という順番で促成効果があります。その差は1週間程度ではないでしょうか。色を変えることにより収穫時期の幅を持たせることが長崎県では実際に行なわれています。広い面積を同じ色にすると一斉に収穫しなければならないからです。
以下は佐世保近郊のある圃場における分球の発生状況です。レポートを書く時間がとれたら再度詳しく書いてみたいと思います。

 

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8月蒔き、3/13時点でこのような二分球がかなり見られました。

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こちらは三分球 売り物にはなりません。

 

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