極早生玉葱と貯蔵玉葱は全く別物である!
極早生系は肥大に合わせるように肥効を調節することが大切!
今年はどうも太りが悪い!あるいは太りが遅い!・・・という声が多く聞かれます
数日前、唐津のY様が遠路はるばるご来店され、同じようなことをおっしゃっておりました。そして、「今年もスーパーアップを作りたいのだが、施肥設計をどのようにしたらよいだろうか?」と質問を受けました。
そこで、スーパーアップの育種元のアカヲ専務様に相談し、長崎県の某所で比較試験されているデータを頂いて私なりに考えてみることにしました。 前回は気象データを引用して太りが遅いことを分析しましたが、今回は具体的な施肥試験データを比較することにより肥大の違いの原因を探ってみようと試みました。
内容は例によって少々硬い文章になってしまいました。眠くなりそうな方はどうぞ読み飛ばしてください(笑)。
【肥料設計の理論的背景】
一般に極早生玉葱の収量は(多めに)最大5トン/10a①であると仮定する。さらに、葉、茎、根の全量をほぼ7トン/10a②という前提で計算してみる。
7000Kg/10aとすると、水分を除いた玉葱の乾物収量は約10%程度なので、700Kg/10aと計算できる。
(以下10a当たりの肥料設計である前提で/10aは省略する。)
野菜類の窒素含有率は3%、(ちなみにCHOで全体の92%である)。
玉葱もほぼ同じなので窒素含有を3%として計算すると、
②の収量を得るために必要な窒素量は
700×3%=21Kg③ となる。
③の数値は前作の残肥がなく、堆肥の肥料成分がなく、施肥量の全部が100%効いた場合に相当する。
◆堆肥の効果
2トン/10aくらいが一般的なので、そのように仮定すると、
窒素の肥効は約1%だとして、2000Kg×1%=20Kg。しかし、C/Nの関係でだいたい数年~6年くらいで溶け出す(溶出率)といわれているので、20Kg÷(3~6)=7~3Kg
よって、堆肥の溶出率の効果を③より差し引くと 14Kg~18Kg④となる。
◆吸収率を考慮
普通、施肥量が100%有効活用されることはなく、実際に利用される成分の割合(吸収率)は50%~100%以下である。
④より吸収率を考慮すると、14~36Kg/10a⑤となる。マルチをするので75%くらいの吸収率であると仮定すれば※、19Kg~24Kg/10a⑥となり、実際の数値にかなり近い。
※60%とすれば、23~30Kg/10a、65%とすれば、22~28Kg/10a、
70%とすれば20~26K/10aとなるので、吸収率次第で数値は大きく変化する!
計算の過程をまとめてみると
①玉葱(根部)の予想収量 5t/10a
②玉葱(全体)の予想収量 7t/10a
③乾物収量から逆算した窒素の絶対吸収必要量 21Kg/10a
④堆肥の溶出率で修正した必要窒素量 14~18Kg/10a
⑤100%が有効利用されないので補正すると 14~36Kg/10a
⑥諸条件を考慮した吸収率で逆算した必要量。19~26Kg/10a
となる
ただし、各過程でかなりアバウトな推測値を使っているので、土質の違いや気象条件による分解・流出や前作の残留の影響による吸収率の違いなどにより、⑥の数値はかなり異なってくるものと思われる。今回は大前提の①がかなり高めに設定してあるので今回の数値はほぼ最大値だと推測される。
一般には堆肥の効果を無視し、吸収率を75%くらいで見積り、③から計算して、21÷75%=28Kg/10aとされているが、これはあくまで施肥設計の上限とみるべきである。
したがって、これ以上の窒素は極早生栽培には有害無益ではないかと考えられる。
また後述するが、上記のように予想吸収量の全体を求めることはできるが、この肥料が、どのように玉葱に吸収されていくのかを知ることがより重要であることを強調したい。なぜなら、時系列的に見るとき、肥料が、同じ割合で均一に吸収されることは絶対にありえないことは容易に予想できるからである。
特に窒素は最初はじわじわ、活着完了から12月上旬にかけては急激に吸収が増えると予想される。リン酸は窒素とは逆の曲線を描き最初に急激に吸収されその後減少していく。カリは全期を通して平均して必要。これは周知の事実である。
肥料設計自体がかなりアバウトな推測の上に成立していることが分かっているので、設計の数値自体を必要以上に重要視するのではなく、過剰あるいは過少な施肥の危険性を戒める程度にとどめるべきだと思われる。より重要なのことは、極早生玉葱の肥大に最も効率よく吸収されるように肥効を分散あるいは集中させるために、①肥効調整型の肥料を活用し、肥大の加速度と天候に合わせた②最適な追肥を実施することがポイントだと考える。
【実際の試験結果をふまえて】
さて、長崎県の南部某所で試験された施肥設計の違いによる極早生玉葱栽培の試験結果が手元にあるが、肥料の商品名等、詳細を公表できないので慣行栽培の一例を示す。
品種:スーパーアップ
播種:H28/9/1
定植:H28/10/17
収穫:H29/2/3~
栽培:畝幅140cm、株間17cm、条間20cm、6条植、約25,000株/10a
元肥:窒素成分15%で200Kg N:P:K=28:34:26 Kg/10a
追肥:窒素成分13%で20Kg N:P:K=2.6:1.8:1.8 Kg/10a
合計: N:P:K=30.6:35.8:27.8 Kg/10a
※その他、苦土消石灰140Kg/10aの記述はあるが、有機質施用のデータなし。
収量:2.9t/10a
※上記慣行肥料に対し、肥効調整型緩効性窒素を用いた場合は等量以下の施肥設計でも20%の収量増を得ることができた。
【まとめ】
肥料を変えて実施した比較試験をふまえた結果をまとめると、(詳細は書けないが、)同一窒素成分でも肥効調整型の緩効性肥料を用いたほうが、収量、品質ともにかなり向上することが分かった
。
推測するに、一般の肥料では元肥投入時に肥効は最大になるが、玉葱側としては肥大とともに窒素の吸収量は増大し、成長の加速度が増すほど追肥の必要性が増す。従って、慣行の肥培管理だと、必要でないときに肥効が効きすぎて、必要な時に肥効が不足してしまっているものと予想されるので非常に効率が悪い。
理想的には肥大と共に同化養分の生成が活発になるのだから、窒素の肥効も時間とともに増大することが望ましいのは火を見るより明らかである。また、成長の加速度は日照時間や温度と共に目まぐるしく変動するのが予想されるので、追肥も状況判断を的確に行い、遅滞なく実施することが望ましいと思われる。
施肥設計の具体的な数値を挙げると上記のような数値になりますが、栽培者の圃場の土壌条件はさまざまです。経験を可能な限り加味しながら、肥料設計の数値自体はご自分で微調整をしていただくことを強く望みます。
考察にもありましたが、肥効には、地域性、温度、土質等のさまざまな条件が存在します。それを、一概に説明しなさい!と言うのは無理がありますので、ここでは、総論的な説明でご容赦下さい。
スーパーアップを栽培していて思うのは、一般の玉葱に比べると成育期間が短いと言うことです。と言うことは、本圃に定植したらいかに早く走らせるか!です。
一般的に玉葱栽培は、年内はゆっくりと、年明けから大きくが常識だと思います。ですが、これだとスーパーアップの潜在能力を
引き出す事ができません。元肥が多い理由はここにあります。リスクも存在します。早く蒔いて、早く定植するので肥効が強すぎて暴れてしまう事もあります。私は、窒素の肥効を調節する肥料を使う事で軽減しています。
多肥と言えども、収穫まで元肥で全てを補えるものでは決してありません!考察を引用させていただくと、追肥の時期と種類が重要と考えます。
私もそうだったのですが、追肥は葉色を診ながらが基本でした。それでは、年内に葉の生産に窒素を多く消費してしまうため、葉色が冷めた時には低窒素状態になっており、その状態で低温に遭遇すると花芽分化し収穫期は抽苔ばかりだった!との事態にも成りかねません。そうならない為にも年内の追肥を推奨します。種類は肥効が長く、三要素がふくま
れているものが良いように思います。