生産物が施肥量を決定づける!大発見…(笑)

ニンニクの玉割れの原因は何でしょうか?

 

5月某日、福岡県のお客様よりご質問メールをいただきました。
皆様にもお役に立てるかと存じ、要約の上引用させていただきました。

最近同じテーマが続きますが、今回も施肥設計の考え方に起因するようなので、今一度基本に戻って考えてみたいと思います。
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ブログ、ホームページ等を見て再度のお願い聞いて下さい。
私はニンニクを200㎡栽培しています。1年間隔で植えております。
しかし、今年は80%が玉割れしてショックを受けております。
もし宜しければご指導をお願いしたく思っております。

>9月2日頃に元肥で1㎡当たり発酵鶏糞2kg化成肥料161616の48を200g入れ耕運。
>9/20に植え付け、11/15に発酵鶏糞と48を3対1で混ぜ1㎡当たり100gの追肥しました。
>1/20に同様の2回目の追肥をしました。消毒はボルドー・ダイセン・ダコニールを実施。
>4/9にニンニクの芽20本収穫、5/3に玉割れに気付き堀上ました。

玉割れ原因は①窒素過多②収穫時期が遅いと言われています。
やはり、肥料過多だったでしょうか。
品種は上海早生と思いますが定かでは有りません。
なお、昨年は5/15に収穫しましたが玉割れは30%位でした。
ニンニクは黒ニンニクを作る為栽培しております。
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以上の内容のメールでした。

ご本人も追伸で書かれているのですが、窒素過多・・・が疑われます。

なぜ窒素過多だと判断するのか!・・・それは、必要な肥料(主として窒素分)の上限が野菜の種類によって決まっているからです。そしてその値は簡単な計算で求めることができるのですが、多分ネットや文献のデータの引用を信じてそのまま採用された結果、過剰施肥になってしまった可能性が考えられます。

上限以上の肥料を施肥することは人間でいえばメタボ、あるいは炭水化物の摂取しすぎに相当するので、玉割れだけではなく、病害虫の発生の引き金になります。また、硝酸態窒素の土壌及び生産物への残留という致命傷にもつながりますので十分な注意が必要だと思います。

さて議論の本題に入りましょう。

ご本人も書かれていたのですが、
「肥料についてはよく1㎡当たり100~150gの化成肥料と見ますので・・・」
と追伸メールには書かれていましたが、ホントにそうでしょうか?

これまでのブログで繰り返してきましたように、畑からの生成物は畑にある水と、空気に含まれる酸素と、二酸化炭素が光合成により92%が生成されます。残り8%を畑から吸収すればよいのです。このように考えると生成物の面積当たりの収量が大体わかれば必要な肥料(窒素分)が計算できるのです。

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◆基本的な肥料設計について

早生玉葱の平均的な収量が3~5t/10aであるので茎葉根全部含めて5t程度です。
ですから、ニンニクもほぼ同じと仮定してみてもそれほどの誤差はないはずですのでそうします。

つまりニンニクの青果物の全量は:5t/10a=5000Kg/1000㎡=5Kg/㎡です。

水分を抜くと、乾物収量は約10%ですので0.5Kg/㎡となります。

植物の元素組成はほぼ一定で窒素は約3%です。
すると、畑からとれたニンニクに含まれる窒素分は
0.5Kg×3%=500g×0.03=15g/㎡です。同じことですが15Kg/10aとなります。

この15gという値が1㎡の畑によってニンニクによって生成された窒素ということになります。ニンニクは豆のように空中窒素を固定できないので、この窒素分は全て肥料由来だと考えられます。

ここで議論を簡単にするために、堆肥などの溶出窒素を無視します。また、肥料がどれだけ有効に効いたかという指数を吸収率といいますが一般的には50%~100%として計算します。

今回は50%、即ち少なめにしか効かなかったとしても
15g÷50%=30g/㎡となります。※

◆お客様のデータの考察
ここでメールに書かれたデータを分析してみることにします・・・
> 9月2日頃に元肥で1㎡当たり発酵鶏糞2kg化成肥料161616の
> 48を200g入れ耕運。・・・
を考えてみます。

鶏糞の窒素成分は少なめに見積もって約3%くらいでしょう。
これで窒素分を計算してみると
2K=2000g×0.03=60g/㎡・・・A

次に化成肥料の窒素成分は16%でしょうから
同じようにして
200g×0.16=32g/㎡・・・B

ですから単純に9/2に施肥された元肥の窒素分の合計はA+B
つまり60+32=92g/㎡となります。

さて原理的に求めた数値※と比較してみてください。三倍以上の値となっております。これに追肥が加わり、もし堆肥の歴年効果(毎年施肥される堆肥が少しずつ分解しそれぞれが加算されて肥効が増えること)を考えると如何に窒素過多であるかが想像できると思います。

私は玉葱程ニンニクに詳しくはありませんが、同じユリ科植物としてそれほどけた違いにニンニクが肥料を喰うわけでは無いと思いますので、それほど的外れた議論ではないと思っています。

以前、施肥設計には本質的にアバウトさが付きまとうということを書きましたが、
それは土壌条件や過去の施肥履歴や天候によって施肥量が正確には決定できないことをいったまでで、上限や下限は正確に推測できます。したがって、それを逸脱すれば過剰害や過少害が発生するのは当然です。

察しのよい方はお気づきかもしれませんが、ニンニクや先の玉葱以外の作物でも、これまでの議論の前半はほぼ同じように展開できます。
つまり、施肥量は単位面積当たりに対し、畑から生成される野菜の重量に正確に比例するのです。

今回のように堆肥の施肥効果や歴年効果を無視できれば、
肥料の吸収率を50%~100%の範囲で考えると

生成物  2t/10a → 窒素成分: 6~12Kg/10a
生成物  5t/10a → 窒素成分:15~30Kg/10a
生成物 10t/10a → 窒素成分:30~60Kg/10a
が施肥量の上限だと考えられます。

ただし、野菜による乾物重量の違い、野菜の種類による窒素組成の違いによっては計算の中で補正する必要が出てくるのは当然のことです。しかし、以前のべた肥料設計に本質的に含まれるアバウトさに比べると無視できると思われます。

このように考えると、野菜の種類によるのではなく、野菜の生産量が肥料設計を決定づけるのだという法則を発見したことになるのではないでしょうか!

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5/19:補足追加)

上記の数値はいわゆる元肥と追肥の合計の上限値です。

ただ直前のブログで述べたように、肥料は一度に吸収するものではありません。(生長や果実の着生と共に必要量が変化するので人間の都合ではなく作物の都合に合わせながら施肥しなければなりません)。

おそらく野菜の求める肥料カーブは緩やかな上昇カーブを描いていると想像できます。一方、人間が施肥するグラフは階段のようなデジタル的な直線だろうと予想されます。ここで、二つのグラフの差をとればごつごつとした「こぶ」が描けるはずです!

たぶん、この最大の「こぶ」の大きさの部分が今回のテーマである玉割れの直接の原因ではないかと考えます。同様のことは、人参、大根、ごぼう、ジャガイモなど、根菜類の裂根にも当てはまるのではないでしょうか。

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◆直播する野菜は播種直後にはそれほど体が大きくなく代謝量も小さいので、タンパク合成に主要な役割を果たす「窒素」は体の生長と共に吸収されるのが理想です。従って畑の保肥力の範囲で元肥を与えます。余剰窒素が遊離しないようにするためです。以降、生長に合わせ土壌中の窒素が吸収されるので不足した分を追肥で補っていけばよいのです。

ただし、1~1.5カ月で収穫が終わる葉物野菜などは反当り収量も1~1.5t程度ですから、肥沃でCEC※の高い圃場であれば全量元肥で賄うことは十分可能です。(逆に、施肥回数を減らすためには高いCEC値と土壌の緩衝作用が必須なので腐植や土壌微生物を多様化するための有機質の施用がポイントになると思われます)

※CEC:保肥力の大きさを表す目安です(要検索!)

一方、

 

◆定植野菜など活着後急激に肥大が始まる野菜は元肥を十分施肥しておく必要があるでしょう(ただし、果菜類など初期の花芽分化のために過剰な窒素が有害の場合は元肥中の窒素は減らしておかなければいけません)。 そして栽培期間の長さに応じて元肥と追肥を分割して与えます。一例として元肥を全量の1/2、追肥を2回で1/4+1/4などです。