産地の違いによる栽培哲学の違いの分析
今回はスーパーアップや加津佐13号の栽培レポートを南島原、淡路島、浜松を実際に視察したうえで現地のお客様方から聞けた生の声と、それを分析した情報をまとめてみました。ご参考になれば幸いです。私も同行したかったのですが事情により参加できませんでしたので詳細は育種元のアカヲ専務のレポートからの引用です。
※アカヲ専務及び研修会参加の皆様へ引用はご了承済みです。専務及び参加された皆様には心よりお礼申し上げます。
【長崎県南島原市加津佐】1月16日視察 以下赤尾専務撮影
↑加津佐13号 8/24播種 10/10定植 2月初旬より収穫予定
↑加津佐13号 13.H氏圃場
↑スーパーアップ 9月初旬播種 11月初旬定植 2月中旬より収穫予定
↑スーパーアップ 13.H.氏圃場 株間は10~12cm程度
↑スーパーアップ 条間22cm 株間20cmとやや広めにとった別圃場
↑スーパーアップ やや広めに株間をとった圃場・・・成績が良い
↑スーパーアップ トレイ育苗/機械定植 条間22cm 株間10~11cm
加津佐地区の場合、地床栽培の方が苗が揃うので均一に育ちやすく機械植えの方が不均一でした。トレイの苗が揃っていないと順番に植える関係からどうしても生育にムラができるのが原因だろうと推測されます。
13.H氏によると、同時期のスーパーアップは加津佐13号の生育に比較すると遅れているとのこと。また、加津佐13号も1月16日現在まだ総引きできる状態ではないとのことでした。全体としては暖冬条件だけではなく、積算日照などの好条件により生育が進んでいるようです。特に今年のような場合、加津佐より気温が低いと考えられる北の佐賀県などでは半月~1月位生育が進んでいるのと報告もあります。
一般に、今年のように生育が進みすぎるような年は早く定植したものほど、首が太く、内部分球が割合が多いみたいです。(現地の生産者の皆様によると定植のタイミングで状況はかなり違うそうです)。
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【淡路島南あわじ市】 2019年1月18日視察
↑スーパーアップ 8/7播種 9月初旬定植 12/初旬より収穫開始
畝間が広い。この圃場は写真奥の高速道路が風よけになっており冬場暖かく生育が早いとのこと。 抜き取り収穫の途中
↑一つ上の写真の道路を隔てて反対側の圃場
黄色線内が加津佐13号でそれ以外がスーパーアップ
あまり生育に差は見られない。
↑加津佐13号のアップ
↑スーパーアップの圃場
↑視察の様子 無マルチ、高畝、土がとても粘質
↑視察の様子
淡路ではこの圃場と同じように粘質土壌であるため、玉葱以外でも白菜、レタス、ブロッコリー等もすべて非常に高い畝で栽培されているそうです。つまり、排水対策としての高畝作りが先人の知恵として代々受け継がれているとのことでした。
施肥法(少元肥、追肥主体)を含め、この高畝による栽培は①首が締まり品質や揃いが良くなる ②根域が広がり吸肥効率が高まる ③湿害による病気が発生しにくい 等の見習うべき点が多々あることに気づかされました。
↑スーパーアップ圃場 8/20~24播種 10月定植
見にくいですが、写真上部の黄色線枠内が機械植え、手前が手植えでの定植 淡路では、加津佐とは反対に機械植えが良く揃っているとのことでした。
↑定植風景
↑冷蔵貯蔵庫を見せていただきました。
赤尾専務によると、
「極早生のタマネギ栽培において、地温の確保や雑草対策のためにほとんど必須だと思っていたマルチをしていないという事に驚いた」
「品種特性を見極め、環境(地温、日当たり、水はけ)を考慮しタマネギに無理な成長をさせないようにこまめな追肥で施肥を調整し、早生性と秀品率を両立させている。」
「これまでの長年のタマネギ栽培の経験によるものだと考えられるが、その栽培センスの良さに驚かされる。淡路島で栽培可能であれば、他の地域でも同様の栽培が可能だと考えられる。」
と述べられていました。
収量をあげるために施肥量と密植に頼りがちになるが、品質を上げるために「高畝栽培」「小まめな追肥」が重要であるということが淡路視察の最大の成果だったように思えます。
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【浜松市篠原地区】 2019年1月19日視察
↑栽培は沿岸道路の海側、暖かい畑だけで栽培されているとのこと。
土質は、すべてこのような砂地です。
圃場で葉を切ると砂が入ってしまってとても大変なんだそうです。
↑当地では品種不詳のこのような甲高白色極早生玉葱が白マルチで
栽培されています。 株間はかなり広いです。
↑透明マルチばかりです
↑抜き取り収穫
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【三産地の特徴と相違点】
◆加津佐(南島原)では早生性(単価)と収量を重視。他の地区と比較するとかなり多肥栽培である。株間は狭く、土壌は粘質だが、温暖な気候を生かして肥料の力をかりて肥大を促進させている感じがする。従って、秀品率は下がるが、株数が多いため全体の収量は多くなっている。
◆南あわじ市(淡路島)では、条件の良い場所ではマルチなしでも年内に収穫可能。元肥をへらし、追肥の回数を増やすことで秀品率を上げている模様。しかし、諸条件や手間暇をかけると淡路島方式では極端な増産は難しいかも。
◆篠原地区(浜松)ではサラサラの土壌を生かして、早生性と秀品率を両立させている。さすがに極早生玉葱発祥の地であるという感がある。
◆加津佐地区は育苗日数のかかった丈夫な苗を、淡路島や浜松では1カ月育苗程度の若苗を定植している。定植後の各地の天候、特に温度の違いによるものと思われる。どちらが良いかという問題ではなく、ストレスを受けることなく活着し生育の停滞がないようにするために各産地で自然と受け継がれてきた結果だろうと思われる。温暖であれば丈夫な苗を、そうでなければ若苗定植がセオリーか?
◎施肥量の多寡より、肥料の吸収カーブが次第に増大し結球時に最大になるようにコントロールすることが大切であるように思われる。従ってこまめな追肥を行ったりすることや肥効調整型の緩効性肥料を積極的に用いるのがポイントになるのではないかと思われる。 また、浜松の砂地、淡路の高畝にみられるように水はけがよく、根が深くはれる土壌が玉葱には適していることが分かった。
◎温暖であることが極早生玉葱には必要条件であり、厳寒期でも7℃以上を確保したい。しかし、極早生系は下降気温でしかも12月~1月のかなり低い低温下でも肥大しなければならない。そのエネルギーとして肥料も大切であるが、光エネルギーに想像以上に影響を受けることが分かってきた。株間は広い方が秀品率が上がる(首が締まって形が良くなる)。また、低温下でも日照時間が長いとそれなりに肥大し分球なども少なくなる。ベト病などの低温期特有の病気の発生も少ない。
◎各産地により早生性のあらわれ方は様々ですが、条件が良ければ加津佐13号がかなりスーパーアップより早く生育しているのが確認できた。ただし、1月末現在、定植後の台風禍の影響を強く受けたり、圃場の風、温度、日照条件が悪いとその差は僅かな産地もある。昨年同様両品種は使い分けていくことが必要だと思われる。